第30計 のきを借りて母屋を取る計(反客為主計)

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のきを借りて母屋を取る計

野村宏

36計でよく使われる計といえば、第30計「のきを借りて母屋を取る計」で反客為主計(客が反って主と為る)といわれる計略です。

「のきを借りて母屋を取る計」(反客為主計)が、中華(華僑を含む)の世界では、戦略としてすぐれたものと考えられている!ということを覚えましょう。

反客為主計(客が反って主と為る)というと難しそうなので、日本でよくいわれる「のきを貸したら母屋を取られた」という言い方を、仕掛ける側からの目でみた言い方で「のきを借りて母屋を取る計」とするとわかりやすいでしょう。

中華系の戦略思考では、自分がかなり優勢な状況でも、正面からぶつかって勝つのはへたな策と考えます。たとえ勝っても、自分のほうもかなりの犠牲を出すからです。このあたりの超現実思考はすごいですね。お花畑の某国民が食われるだけなのがよくわかります。

そこで、敵のスキや善意、無知などにつけこんで、味方のようなフリをして敵の陣営の隅っこのほうに入りこむことから始めるのです。隅っこでも内部に入ってしまえば、外から見るより組織の実態をはるかに細かく知ることができます。組織の弱点もよく見えてきますね。

こうして内部に入りこんでから、相手の弱点をすこしづつ拡大し、徐々に自分の勢力を拡大し、最後に母屋を取る(乗っ取る)ことを目指します。

日本人でもこんな戦術を考えている人がいるでしょうが、外国人にはこれを考えている人の率が高いですね。(特に中華系では、ベストセラーである36計の中心になっている戦略ですから確率はさらに高いですね)

嫌な考えなどと思っていると食われるだけです。ビジネスで付き合う相手は、こう考えている可能性があると思ってじっくり観察しましょう。

日本の戦国武将 斎藤道三は「のきを借りて母屋を取る計」の典型例

野村宏

戦国武将の斎藤道三が成り上がった計略が、典型的な「のきを借りて母屋を取る計」です。

ちょうど50年前の1973年に、NHKで「国盗り物語」という大河ドラマが放送されましたが、原作者の司馬遼太郎が、「国取り」ではなく「国盗り」としているのはさすがです。

道三の謀略オンパレードの盗み取るような乗っ取りのやり方が、正面攻撃をイメージさせる「国取り」ではなく「国盗り」とした方がしっくりしたのでしょう。(※ちなみに50年前の私は、この「国盗り」の意味は実感できず、なんで「国取り」じゃないんだろうなんて思ってました。まあ10代ではむりでしょうが…)

ちょっと坊主になって、すぐやめ、美濃で油売りをしていた道三は、腹の中に最初から「のきを借りて母屋を取る計」を秘めていたように、ちゃくちゃくと計略を進めます。いつどこでこんな計略をならったのでしょうか、と思うぐらいです。

本などほとんどないこの時代は、こういう謀略が書かれた中国の本を読むのは坊さんぐらいですから、ちょっと坊主になった時期に目にしたのでしょうか?それともマムシと異名をとる道三の天性の才能なのでしょうか?

道三はまず手始めに、美濃の大名土岐氏の重臣、長井 長弘に取り入り、じっくりと中に仲間を作り派閥を作っていきます。そして、自分の主人である長井に遊びを勧め、遊び呆ける長井の評判を落としていきます。その裏で、道三は長井に反感を持つ家臣たちを集め、長井の遊び呆ける自堕落さを吹聴し、最後には長井を暗殺させることに成功します。そして美濃の支城の城主としての長井の地位を奪うことに成功します。

次は、美濃の大名の土岐頼芸がターゲットです。これも戦国大名としてはわきの甘い土岐に甘言を弄して近づき、その周りの家臣にはエサを投げて仲間としていきます。こうして最後には土岐を尾張に追放することに成功します。

現在の会社組織でも、いかにもありそうなヤリクチですね。「のきを借りて母屋を取る計」が、出世に非常に有効な策略であることをわかっているヤツが、長期戦略で仕掛けてくるので知らないでいるとイチコロです。しかしこの戦略が成功したときには、組織全体は弱り切っています。この戦略は、仕掛けるヤツが出世するには成功率が高いものです。

しかし、組織の力を伸ばそうとか、前に向けようというような考えは一切なく、ただ内部抗争を目立たないように長期戦で仕掛け、上の者を蹴落とすことだけが目的なので、外部のライバル組織が組織として強くなろうという動きがあれば、それに比べ組織の力で負けることになり対外的には負け組になってしまうのです。

中華系のベストセラー36計でよく使われる策略といいましたが、これは日本でも相当に使われている策略ですね。私も60数年生きてきた中で、何回もゲップがでるほど見聞きしました。経営者たるもの、内部でこの策略が横行し、成功者が出世するような事態になれば組織としての力は必ず衰退していきます。

ライバル会社が組織力を強くしようと努力していれば、気づいた時にはかならずライバル会社に組織力で大きな差をつけられ組織として負け組になってしまうのです。組織内に、このような動きをする者がいないか、常に細心の注意を払い続けるべきでしょう。「のきを借りて母屋を取る計」(反客為主計)要注意です!


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