第6計:東側で声をあげ西を撃つ計(声東撃西計)
今回は、声東撃西計の成功例と失敗例をお話します。
本当に攻める場所とは違う場所で声をあげ、そこに注意をむけさせて全然違う場所を攻める、という単純だけど非常に効果的な計です
この計がよく使われるのは、軍隊同士と、警察対犯罪者、が対決するときです。いわゆる「陽動作戦」ですね。
彼らのケースでは、相手がこの陽動作戦を使ってくることは、なかば常識です。
- 1-1.軍隊での実例
-
軍隊での有名な例は、漢の将軍、韓信が魏を攻めた場合の、黄河を渡るための作戦です。黄河は川幅の広い大河です。紀元前である当時の船の技術では、川を渡っている最中に向こう岸から集中攻撃されると、それを防ぐ防備が弱く、大損害をこうむります。そこで相手方は、黄河のどの地点を渡ってくるかの情報をつかみ、そこで防備を固める作戦がとられます。
当時の黄河では、蒲坂渡口という場所が川幅も狭く軍隊が渡りやすいため、漢の軍もまずここに向かいました。しかし、魏の方もそれを予期し、ここに堅固な陣地を構築し監視も厳重にしており、無理に渡ろうとすれば大きな被害を受けることが予想されました。
そこで韓信は、黄河のはるか上流まで偵察隊を派遣し、渡れる場所を探らせました。偵察隊の報告で、韓信はある地点を渡る場所にすると決断しました。
そこで全軍を移動とはしないのが、戦略にすぐれた韓信です。一部の留守部隊を蒲坂渡口に残し、川を渡るぞというモーションと軍隊の鬨の声だけは続けさせておき、自分は大軍をひいき夜間ひそかに別の場所に移動し、一気に黄河を渡ったのです。
魏の将軍は、渡れないはずの黄河のこちら岸に漢の大軍があらわれ、激しく動揺し、大敗を喫しました。東側で声をあげ、西を撃つ計の成功例です。
- 1-2.警官隊に追われる犯罪者は、四六時中この計を使います
-
これは、テレビのサスペンスものでもしょっちゅう見る場面でしょう。警官隊に追われる犯罪者が、下っ端や、一般人などを使い、パッと別の方向に逃げると見せかけ違う方向に親分が逃げる、というやつです。しかし、相手もさるもの、警察はこんな策は百も承知ですから、反対側にも包囲網をしいていますのでまず成功しません。
単純な計略ですが、こんなことに慣れていない人は、すぐハマります
警察対犯罪者なら、百戦錬磨の警察はまず引っかかりませんが、一般の人ならどうでしょう?
よくあるのは、銀行からでてきた女性などに、力のなさそうな老女に声をかけさせ、道を聴くなどして注意をそらせ仲間がひったくる、などという作戦です。
日本では、まだこんなことは少ないでしょうが(最近は油断禁物になってきましたが)海外に出たらそうはいっていられません。一番に注意すべき作戦でしょう。
ビジネスの世界では、大手チェーン店が新規出店の際、よく使う手です
大手チェーンが地方に進出すると、そこにある地元商店街の反対運動がしばしば起こります。
品揃えや利便性で劣る地元商店街が、政治家なども動員して反対運動を展開することがよくあります。これに正面からぶつかるのを避け、一気に出店にこぎつける策としてこの「東側で声をあげ、西を撃つ計」が使われます。
文字通り、その町の東側に出店するよ、といっておいて、不動産屋を動かしたりして陽動作戦をしておいて、極秘裏に西側で土地を借り受け、一気に認可をとってしまうのです。
大手企業は、地方進出の際、地元の反対運動にいつも苦労していますので、よく使われる作戦のようです。ビジネスマンならば、日本ですら要注意の計略です。